PoCは「Proof of Concept」の略になり、和訳すると「概念実証」となり、「コンセプト立証」「実証実験」などと表現されることもあります。
ビジネスにおいて、新しいビジネスアイデアや製品、サービスの開発前に、そのアイデアが実際に市場で受け入れられるかどうか、技術的に実現可能かどうか、投資効果はあるのかを具体的に確認するために行います。
Contents
今、なぜPoCが注目されているのか?
最近では、多くのSaaSやAIサービスがリリースされており、その導入コストは数百万から数億円単位になります。サービスの導入は企業にとって大きな経営判断のひとつとなり、その後の事業にも大きな影響を与えます。
PoCを行うことで、実際に導入を検討しているサービスがそもそも自社にとって必要なものなのかを検討するだけでなく
「導入後にどのような効果をもたらすのか?」
「導入後に起こり得る問題は何か?」
「費用対効果はあるのか?」
を具体的にあぶり出すことでより効果的な投資判断を行うことができます。
実証実験を細かく行いながら成功までの道筋を描くことで、リスクを排除し、無駄なコストの削減につながることから、昨今、企業においてPoCがひとつの事業ステップとして導入されています。
PoCを行うことのメリット・デメリット
PoCを行うことのメリット
①コストの削減
本格導入の前に、本当に必要なものなのかどうかを検討することで、本来必要となるコストを削減することが可能となります。
②費用対効果の算出
費用対効果が生まれたかどうかを具体的な数値で算出することができます。感覚的な判断ではなく実数値でより客観的な判断を行うことを可能とします。
③目標実現の可能性
理想としている目標が実現可能であるかを判断する要素が集まります。机上の空論になることなく、判断することができるようになります。
④今後想定される課題の確認
実際に導入した際に想定される課題を事前に見つけることで、導入後の負担を軽減したり、そもそも導入するか否かを判断する基準を得ることができます。
PoCを行うことのデメリット
①実証実験の時間が必要
実証実験は数ヶ月〜1年単位での時間を必要とします。プランニング、準備、実施、結果、フィードバックなど、短期間で行う場合は別の手段を検討する必要があるかもしれません。
②検証回数が増えると費用がかかる
実施にはコストが必要となります。実際に何度もPoCを行うとなるとそれだけ費用がかかりますし、検証を行ったからといって、本格導入に至らない場合はPoCに必要となった費用は回収することはできません。
メリット・デメリットは表裏一体ではありますが、PoCを行う際にはその両面をしっかり把握した上で、自身のビジネスへの必要性を検討することが大切になります。
海外におけるPoCの実例
①Uber(ウーバー)
2014年創業。タクシー業界に革命をもたらしたアプリです。 Uberの創業者は、最初にアイデアを出した時点で、それが本当に市場で受け入れられるのか、また技術的に実現可能かどうかを確認するためにPoCを行いました。
最初のPoCでは、自分たちが所有するわずか数台の車を利用して、簡易的なアプリを作成し、創業者の身内だけに公開し、動作を確認しました。 実際に配車依頼があると、創業者自らが現地まで赴き、お客様に「なぜ依頼したのか?」という理由を聞いて、現地でのヒアリングを行い、ニーズを理解した上で、サービスに反映しました。
今では全世界に広がるインフラになるサービスになっています。
②Zappos(ザッポス)
2009年にアマゾンに1.2億ドルで買収されて有名になったZappos。 創業者のNickさんは、靴のECサイトをスタートしようと考えていましたが、オンラインで靴を販売できるかどうかの確証がなかったために、地元の靴屋さんに靴の写真を撮らせてもらい、それらを自社サイトに掲載。実際に販売できるかのテストを行いました。
実際にオンラインで発注がある度に、実店舗に出向き、購入して、お客様に送付していたことがZapposのスタートと言われています。
実際にオンラインで購入したい!というニーズがあるかどうか、購入した際に起こりえる問題は何があるのか?実際の声を集めるための大きな実験となりました。
日本におけるPoCの実例
①福岡スマートシェアサイクル実証実験事業
(画像引用:https://charichari.bike/blog/fuk-10-million-rides-20220808 )
福岡市ではお馴染みのシェアサイクル事業に関しては、当初「メルチャリ」としてスタートし、都心部内の回遊性向上など一定の効果が認められたことから、令和2年4月からエリアを拡大し、「福岡スマートシェアサイクル事業」として福岡の事業として取り組まれています。
ちなみに、2018 年 6月の「福岡市スマートシェアサイクル実証実験」開始以来の累計利用実績が 1000 万回を突破したそうです。認知と利用者を同時に増やしながら、お客様からのニーズを把握し、利用地域を拡大していくことで無駄のないビジネスを行っていることが理解できます。
②JR九州でのタッチ決済を活用した実証実験
(画像引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000310.000032321.html )
JR九州の一部区間において行われている公共交通機関向けソリューション「stera transit」を活用し実施している、タッチ決済で自動改札機の入出場を行う実証実験。日常利用だけでなく、訪日外国人を含む来街者の利便性の向上やサービスの効果について、現在も検証中です。
PoCを成功させる3つのポイント
1.目的の明確化
PoC(実証実験)を行う目的を明確にし、最後までやり遂げる必要があります。目的がブレないように、得たい数値目標と撤退ライン、失敗も含めて結果を得ることを第一とし、行動と結果、数値目標など基準となるものをあらかじめ決めておきましょう。
2.チームワークとプロジェクトマネージメント
PoC(実証実験)は一部署、一部分で行うことは少なく、他部署間での連携も必要になります。導入を見据えて、全体で取り組むことで、具体的な課題を初期段階で見つけることができます。 またプロジェクトとして推進していく担当者、そして連携するチームづくりの必要性をあらかじめ認識することが大切です。
3.結果の分析とフィードバック
PoC(実証実験)を通して、実際にサービスを導入するかどうか、期間を決めて集計したデータや現場からのフィードバックをもとに、次のPoCに向けての分析を行います。うまくいった点だけでなく、課題を明確にすることも重要になります。
PoCを行うことの意味・課題
実証実験を行うことで、サービスの導入、展開の見通しが立つだけでなく、本格的な始動の際に生じる課題やつまづきにも早期に気づくことを可能とします。
プロジェクトの企画などは机上の空論となりやすく、実際に現場の声と上層部の差が生じることも少なくありません。そのような中で実証実験を行うことは、ひとりひとりがサービスを自分ごとと捉えるきっかけにもなります。
PoCには費用と時間を必要とします。 企業の人的リソースも必要となります。 決して安いものではありません。
「本当にそのサービスに投資を行うべきか?」
「実際に今の課題の改善につながるのか?」
「スムーズな導入に必要な点は何か?」
プロジェクトの成功実現性、そしてビジネスの再現性を高めるために存在するのがPoCになります。 AIサービス等の導入において、サービスを理解し、納得し、確信を得るためのステップとして、PoCからはじめるのは今の時代のスマートな在り方なのかもしれません。